ひとりむんの半ぴどんな、近ごろ親元から離れて、子どもの頃からん親友の六兵衛どん小屋の隣に自分も小屋を建てて住んだげな。
ある朝のこっちゃ、半ぴどんな、今の時刻でいうと十時頃にやっと目を覚まし、あらけん流し場でつら洗いを始めたげな。
そこへ、朝のうちにひとしごつ片付けてきた、六兵衛どんの父親の九兵衛どんが通りかかり
「よい半ぴ。わりゃ今ごろ目ざめたっか。そろそろ嫁女をもらわんか。そすれば生活も変わるじゃろうし、ちったあ仕事にもやる気が出るごつなるはずじゃ。」
「そうじゃろうか、九兵衛どん。えろまた朝かいよか話っしゃな」
「縁起のいい話は朝んうちよ。・・・・・どうじゃ、半ぴ。」
「九兵衛どん、まさか、この跡江村とか隣村辺のごごどんちゅうこっちゃあるめえな。」
「いやいや、半ぴ。まだどこのごごと決めたわけでもねっちゃが。ほんなら、なんでこの辺のごごじゃったらいかんとか。」
「そりゃ九兵衛どん、おれんよなよだきごろを知っちょるこの辺のごごどま、誰も嫁女に来てくるるもんどまおりゃせんわな。」
「ハハハそうか。しかし半ぴよ、おれはな、お前のいい面もわりい面も合わせて、ほかのだれもが持たん、よかあ面を持った男じゃと思うちょる。ま、おれも口八丁手八丁の馬喰(ばくろう)じゃが、ここはひとつどーんとおれにまかせちみらんか。」
「へぇ。じゃけんどん、どう見てもこの辺にゃよかごごはおらんと思うかい、ちった遠いとこかり探してみてくんない。」と、半ぴどんもいよいよ乗り気になってきたげな。
こうなると仕事の早い九兵衛どん、
「善は急げですぐに動き出すのが馬喰魂じゃ」
というが早いか、日頃かい気にかけちょつた小松村の親友、佐吉どんの家を訪ね、そこのごごどんの縁談をまとめあげ、その帰りには半ぴどんげの親ん方にも寄って、仲立の話から祝いの話まで語り合ってきたげな。
さて明くる朝、九兵衛どんな半ぴどんをたたき起こすと、まるで馬のせり市に出すごつ半ぴどんのびんたん毛並みをそろえ、どこかで借りてきたあばぎもんぬ着せち、見合いのため小松村んごごんげに連れち行くごちしたげな。
さあこれかいが馬喰ん知恵の出しどころじゃと、九兵衛どんなかんげたげな。ここはひとつ、半ぴが満足するぐれえ、遠いい道をさるかするこっちゃ。つるべ落としの秋の夕暮れを待って、方角を隣の小松村とは反対の、有田へ向けてうったつことにしたげな。
富吉辺りまでくると日はすったり暮れちしもうたげな。こうなればまっ暗墨で、周りの景色は眼に入らん。九兵衛どんな富吉から後ぎる形で柏原さね向け、ねらいを小松村に定めたげな。そして東へまっすぐ進むと、赤江川の支流である大谷川の左岸に出たげな。
ここまでくれば後はもう、この大谷川の左岸を下っていけば、ひとりでに目指す小松村に入っていくはずじゃと、先を読んだげな。
こうして夜の道を四里も五里も大回りして、二人はへとへとじゃったげな。九兵衛どんな、「てげにゃさるいたが、どこ辺の道かわかるか半ぴ。」と聞いた。
「いやあ、さっぱりじゃ。それよりゃ、まだじゃろかいな。」
これを聞いてほっとした九兵衛どんは声をはずませ、
「ほら、その竹やぶの先に灯りがちらちらすっどが。あれがお前を待つちょるごごどんの家じゃ。」
これを聞くと半ぴどんもほっとしたふで、
「ああ、といかったなあ。九兵衛どんもひんだれやったろ。」
「ハハハ確かにひんだれたな。でん、こうして夜の夜中まで半ぴを待っちょりやったとは、佐吉どんげの人たちど。いいか、着いたらていねいにお礼をいえよ。」
と、大人としてのあいさつまでこまこう教えながら、九兵衛どんは入り口の戸をたたいたげな。
中から声があって戸が開くと、家の中がいろりの火で明か明かと照らされ、お父っさん、おつ母さん、ごごどんの姿が劇場の場面のごつ浮かび上がったげな。
早速、手をとるように客座に案内された半ぴどんな、もう九兵衛どんにいわれたあいさつの言葉もけ忘れち、こちこちじゃったげな。
おっ母さんの目くばせで、ごごどんがお茶を入れて半ぴどんに差し出したげな。
半ぴどんはちらちらとごごどんぬ見ながら、ここのごごなら明るく育ちもいい、それにおれにはもったいねぐれ器量もよか。半ぴどんは一目でごごどんが好きになったげな。それに、お父っさん、おつ母さんの心配りが身にしみて、何かひとこと言わねばと、まわりの雰囲気に押され、両手をつくと、
「つ、つまらん男じゃが、こりかりゃ、た、たましゅへれち、は、働きますかい、どかどか、ごごどんをも、もろちくんない。」
ちゅうたげな。あいさつのつもりじゃが… 何かがおかしい。
座が一瞬ぴたっと静まったかとし思うと、九兵衛どんが大声で笑い出したげな。
「ハハハハ、半ぴ! ごごどんをもろちくんないとはどういうこっちゃ。ハハハ。」
すると半ぴどんが頭をかきかき、
「あっ?そ、そ、そりゃ、あべこべん言葉でしたかな? こら、す、すっまっせーん、お父っさん。」
ちゅうたむんで、座がいっぺんにほぐれ、ごごどんもおっ母さんも体をよじって大笑いじゃったげな。
こうしてなごやかなうちにごごどんからの返事をもろち、早速祝いの膳となったげな。
九兵衛どんな、今まで見たこともねえ笑顔で酒を飲む半ぴどんを眺めながら、ふと、帰り道をどうするか考えちょったげな。夕方から大回りして来たあの道をまた後戻りして帰るなんて、もういやじゃ。
「えーいくそ。もうこうなりゃ、おれも負けんごつ呑むどー、半ぴー!」
そげなこって二人はべろべろに酔っぱらい、どこをさるいて帰ったやらわからんかったげな。
この後は九兵衛どんの仲立で半ぴどんの親元で式を挙げ、すまいも今の小屋を手直しして新居とし、二人の暮らしがはじまったげな。
ところで、この九兵衛どんは生目一帯で知られたやり手の馬喰どんで、馬の良し悪しから人間の良し悪しまで見抜く眼力を持った人で、仲立ちも村一番で、村人からも信頼厚い人じゃったげな。
後に半ぴどんが、家のことはかかどん任せで、自分はめえにち村中を出歩いては人の相談にのったり、村の難題を片付けたりするようになったのも、この九兵衛どんの影響を受けちょっとじゃねどかいちゅうこっちゃ。
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